プライム経済レポート 6月号 「政府主体の企業が世界経済に及ぼす影響」
世界経済において政府系企業が大きな影響力を持ってきている。たとえば世界における大手石油会社はどこかということになると普通エクソンモービル、原油流出で大きな問題を起こしているブリティッシュペトロリアム(BP)、シェルなど米英系企業を想像される方が多いのではないだろうか。私もそう理解していたのであるが、実はそうではなく最大の石油資本はすべて政府系である。サウディアラビアのサウディアラムコ(埋蔵量2599億バレル)、ロシアのガズプロム、イランのナショナルイラニアンオイル(埋蔵量1362億バレル)、ベネズエラのペトロレオスデベネズエラ(994億バレル)、マレーシアのペトロナスなどすべて政府系が圧倒的なパワーをもっており、対するシェブロン(73億バレル)、エクソンモービル(76億バレル)、コノコフィリップス(58億バレル)など多国籍企業とは比較にならないサイズである。シェアでいうと多国籍企業の産油量が10%に対して、政府系資本が75%という比率になっている。
戦後から最近まで経済を牽引してきた主役は米国を筆頭に市場経済をメインにしてそのため政府の機能はできるだけ小さく企業の活力をフルに活かすためのサポートに徹していくいわゆる「小さい政府」という概念であった。逆に旧ソ連や中国、東欧などの社会主義国家は効率が悪く経済がうまく回らない事情もあって、市場経済こそ経済発展の理想モデルであるという認識が拡大していた。マイクロソフト、GM、エクソンモービル、コカコーラなど巨大多国籍企業が海外発展をした事実はまさにその象徴といえる。
しかし最近になって政府が経済における発言力と資本を増強してイニシアティブを取る「大きな政府」志向が強まっている。米国をとってもオバマ政権になってから金融危機後破綻企業に対する政府資金投下、医療保険制度における政府の介入、金融機関に対するガイドラインの強化などいずれをとっても政府の発言力は強まっている。
中国、ロシアはその代表格で、市場経済を取り入れながらも、国全体に影響力のある国防、エネルギー、通信、金属や地下資源、宇宙航空などのビジネスにおいて、政府系企業を設立し国家が直接コントロールしようとしている。政府系ソブリンファンド、政府系投資企業などもこういった動きをさらに加速化させている。ただし政府系企業の目的は必ずしも本来企業が目指す自社の利潤や効率が目的ではなく、政府指導者の権力を集中させるという政治的な狙いからきており、これが一部で市場経済に歪みをもたらすことが考えられる。
多国籍企業にとってこれまでにない競争相手が出現したといえる。政府系企業は当然ながら国内企業と取引したがるため、多国籍企業にとっては競争以前にハンデを背負っているようなものである。また政府が介入して多国籍企業の参入を排除しようとする動きも当然出てくる。ロシアにおいてシェル、三菱、三井の石油合弁プロジェクトが政府から突然環境破壊により契約違反ということで撤退を余儀なくされ、前述のガスプロム社がその後独占している現状はその良い例である。
その意味において市場経済モデルは現在後退気味であるといえる。金融危機、米国の景気停滞、ギリシャ危機から来るEU諸国低迷から、市場経済に対する疑いが強まっている。国家が大きく個々のビジネスに関与する経済モデルが拡大している。米国は対抗策として海外の政府系企業に対して関税その他の手段で障壁を設けようとしているが、反感を買うのは必至である。政府系企業は他国の政府系企業同士で取引して、市場経済ビジネスとはできるだけ関わらないという動きが出る可能性もある。保護主義が出てくればもっともマイナス影響を受けるのが、米国、日本、EU諸国である。
米国企業や日本企業は中国、インド、ブラジルなどの市場における巨大なパイを狙ってますます投資を増やそうとする傾向にあるが、見えない障壁が存在することを覚悟したほうが良い。突然政府が関与して営業停止や契約解除に陥るなどのカントリーリスクが常に付きまとう。そのリスクをどのように回避あるいは緩和するかが今後の課題となる。
また逆にこれからこういった海外政府系企業と日本企業が取引したり競合するには、個々の企業努力ももちろん必要だが、ある程度政府がバックアップしてやることも必要ではないだろうか。資金援助や共同開発などに加えて、先日前原国交大臣が日本の鉄道技術をPRするため米国訪問したように積極的にサポートする体制が求められる。
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