iPhoneの登場以来時代はコンピューターからスマホに、ソフトウェアからアプリに向かっている。Siriはその良い例である。ユーザーはSiriをもはやアプリとは思わなくなっている。ロボットであり、人工頭脳ともいえる存在で今は情報の提供であるが、そのうち悩みを打ち明ける相談役にさえなってしまう気がする。
不動産関連のサービスでもすでにアプリと思えないものが登場している。オープンドア(www.opendoor.com)はそのひとつである。同社はアプリを売り出しているのではなく、近所の比較物件データから対象となる売り手の物件価格を自動的に割り出すAVM(Automated Valuation Model)ロボットと言ったほうが適切である。ユーザーにとってはアプリとかを気づかせない技術であり、インターフェースとかいったIT用語もここでは見られない。
あるのは住所や基本情報を入れて申請するだけで、同社が物件を売り手から買い取るといシステムである。その中にはタイトル保険、エスクロー、建物検査など売買に不可欠なステップが含まれるが、同社ではそのステップをできるだけ単純化し自動化するよう心がけている。
このままのペースで進めばクリックで家を売り買いする?そんなことがあり得るのか、という疑問よりいつそうなるのかという疑問のほうが適切かもしれない。。
ライリー(www.textriley.com)もただのアプリではない。SMSの通知を受けて売り出し物件をテキストで見るというサービスだ。ZillowはアップルTVを使って物件を検索するシステムをもうすぐスタートさせる。アップルTVを利用するとなるとZillowとしてはアップルの音声入力ソフトであるSiriに対応しなくてはならない。
アプリには音声入力ソフトウェアは当たり前になってきた。しかも以前だと機械がユーザーから予測する数種類の回答以外は全くチンプンカンプンであったが、最新のものはニュートラルネットワークと呼ばれるプラットフォームから成り立っており、コンピューター自体が巨大なデータの中から学習し、今後に対応する際のルールを作成するというものだ。
しかしユーザーにはそんな機械やソフトウェアの存在を全く感じさせないのが最新のシステムの特徴である。
オープンドアはその最もよい例だ。これまでも各社が使ってきたAVMというコンセプトを最新技術を利用して再定義し、AVMに新たな意義を見出したといえる。
ユーザーにとって大きな変化はない。音声ソフトに入力するだけで情報が取れる。ただこれまでにあったようなインターフェースや複雑な要素はない。
問題なのはユーザーにとってコントロールができないことだ。ユーザーがいったんクリックするとユーザーの手を離れサーバーを通じてクラウドに入った大量のデータから一瞬にして決断が下されるからだ。決断に至った過程はわからないまま、結論だけが出てくる。ユーザーの理解をはるかに超えたレベルで決断が下される。これだとどのようにしてユーザーの好みや考え方が反映されたのか確認できないままである。
エージェントにとって人工頭脳がどの顧客からの照会に反応すべきか、その売り物件が買い手にマッチしているか、あるいはいつ売り出すのがベストか、他のオファーが入ってくる可能性があるかどうかといった疑問に答えを出すようになったら、不動産ビジネスはいったいどうなるのだろうか。
直近の可能性として消費者は売り物件をアップルTV上のZillow で検索し、DocuSign(電子署名ソフト)をSiriを使って音声入力することはもうすぐのところまできている。
今からこういった人工頭脳による不動産ビジネス自動化時代のインパクトを想定しておくべきである。
これまでも新たな技術が生まれたとき、我々は必要以上にそのメリットよりリスクを恐れてきた。しかしいったん普及してしまえば、ほとんどの人はそのことを忘れてしまう。
オンラインバンキングがそうだ。クレジットカードにリンクされたスマホで買い物をすることも当たり前になった。
ただ今後の最新技術に関しては、メリットとリスクをこれまで以上に慎重に見極める必要がある。インターフェースがなくなるということはユーザーがコントロールできなくなるということである。最新技術は使いやすい反面、ますます技術が簡単に見えるもの、理解できるもの、コントロールできるものではなくなっている。これが我々の生活にどのくらいの影響を与え、これを利用してわれわれがどのように情報を得る、売買をする、他とコミュニケーションを取るかということをしっかりと考えておく必要がある。さもないと我々は自らの生活を完全にコントロールされることになりかねない。
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